2005年08月11日

アンチエイジングコラム【06】― [病の宝庫 中年太り- 40代前半で心筋梗塞も

何万年もの間、人類は厳しい自然と向き合って生きてきました。そのため、人間には飢餓という事態へ対抗して生きのびるためにさまざまなシステムが発達しています。例えば、食いだめ。たまにしか手に入らない食料を食べた時には、エネルギーを一時的に脂肪として蓄え、エネルギーを少しずつ使って次の獲物が手に入るまで耐え忍ぶのです。
しかし現在のような飽食の時代には、この脂肪代謝のシステムが異常をきたしてしまいます。例えば肥満。それは体内に過剰な脂肪が蓄積された状態ですが、脂肪の中でも、特に中年太りのような内臓脂肪はさまざまな病気を引き起こす引き金になるのです。内臓脂肪は、普通の皮下脂肪と異なり、脂肪合成や分解活性がより高く、遊離した脂肪酸が門脈を介し直接肝臓へ流入しやすい特徴があります。すなわち脂肪肝になりやすい状態です。
食事からとったブトウ糖や脂肪分は、肝臓で代謝されて遊離脂肪酸やグリセロールになって、血液の流れに乗って脂肪組織の脂肪細胞に取り込まれます。脂肪細胞は脂肪を取りこみ、もう満杯になったサインとしてレプチンというホルモンを分泌します。レプチンが血管を通って、脳内の視床下部に到達すると、食欲をコントロールする司令塔である満腹中枢が刺激を受け、食欲を低下させます。また脂肪組織にも作用しエネルギー代謝の増大を促します。このような仕組みによって、ヒトは身体の脂肪量を一定に保っています。これが正常な状態でのレプチンの働きです。

肥満のあるヒトの95%に高レプチン血症がみられます。このような状態は「レプチン抵抗性」と呼ばれ、レプチンが分泌されて信号が出ていてもそのシグナルが受け取れない状態です。その原因は極めて多様で、レプチンの受容体に異常が発生している人もいれば、細胞内のシグナル伝達がうまくいかない人もいます。肥満のような病的状態では、レプチンの悪い側面ばかりが現れてきます。一般的には、40歳以後で、加齢とともに血中レプチン濃度は上昇していく傾向にあるようです。舌における味覚についても、レプチンが高いと甘味感受性が低下して、甘味が感じにくくなります。結局のところ、甘いものでもそれほど感じることなく、どんどん食べてしまい、レプチンの指令になれっこになってしまった満腹中枢は、食べても食べても食欲を減らそうという命令を出さないようになります。かくして肥満はますます助長するというわけです。骨からカルシウムが抜けてスカスカになる骨粗しょう症も、レプチンが多いと進行してしまいます。しばしば疲労感を訴えることを特徴とする慢性疲労症候群の患者においても、血中レプチン濃度は高いようです。疲労感とも関連があるかもしれません。

レプチンが高いと、血糖値を制御するホルモンであるインスリン抵抗性が上昇して、インスリン作用を発揮しにくくなります。糖尿病状態になりやすくなるわけです。副腎皮質ホルモンのコルチゾルも、身体におけるレプチン抵抗性・インスリン抵抗性をあげる作用があります。レプチン、インスリン、コルチゾルは、必要以上に分泌されると、互いに助長しあって、加齢や老化を促進させてしまうのです。高血圧、高脂血症、内臓肥満、糖尿病を合併すると、動脈硬化が30代から急速に進展し、40代前半で心筋梗塞や脳卒中が起きてしまいます。これが「シンドロームX」とか「死の四重奏」とも呼ばれ、きわめて危険な病態です。中年太りを甘く見ないでください。それは病気の宝庫ですから。